久々に”本物”を見たような気がしました。RTA in Japan summer 2024のポケモン赤緑RTAのことです。
凄いのはプレイスタイルだけではない
初代ポケモン赤緑のソフトを1つずつ使って、150種類のポケモンをすべて集めるというルールのRTAでした。プレイヤーはずのう氏。衝撃的なのはそのプレイスタイルで、左右の手にコントローラを持ち、たった1人で2つのソフトを同時に操作していました。決して各々のプレイが緩慢になることはなく、片手で操作しているとは思えないような正確性もあり、独立した2つのRTAだと言われても疑わないほどの仕上がりでした。
曲芸師のようなプレイスタイルのインパクトに目を奪われがちですが、洗練されたRTAチャートの見事さにも目を見張るものがありました。
すべてのポケモンを集めるというルールであるため、単に素早く敵を倒すだけでなく、ポケモンを育成しながら敵を倒すということが求められるわけですが、そこにいろいろな工夫が凝らされていました。通信交換したポケモンは経験値を1.5倍獲得できるという基本を押さえつつ、育成対象のポケモンをもう一方のソフトに移送して経験値を稼ぐという戦略でしたが、その組み立てが実に緻密でうまい。通信交換でポケモンの授受をするには両方のソフトの進捗状況を同期する必要があるので、どちらかが遅れるとそこで全体の進行がストップしてしまいます。こうしたリスクを軽減するために、例えばミニリュウはサファリゾーンでの捕獲ではなくゲームコーナーの景品で確実に獲得するなど、運による時間の変動を極力抑えた戦略になっていることが伺えました。
ステータスが低いことも多い育成対象のポケモンをバトルで戦力にさせるための工夫にも見ごたえがありました。例えば、サブ側が2周目に入った直後に通信交換の機会を配して、もらったばかりのフシギダネにメイン側で「すてみタックル」の技マシンを使うなどして強化を施し、再びサブ側に戻してニビジムをスムーズに攻略する流れはよく考えられているなと思いました。また、「ものまね」を使った攻略にも感心させられました。
ほかにも、入手確率の低いガルーラとケンタロスの捕獲を攻略の最終盤に持ってくるという戦略も理にかなったものでした。他のやることをすべて終わらせた後に彼らの捕獲を目指す手順とすることで、捕獲が難航した場合にサブ側だけでなくメイン側でも捕獲に向かうことができるようにし、リスクを軽減させていました。最速タイムだけを狙うなら、こうした運に左右される要素はできるだけ序盤に処理して試行時間を短縮したいと考えてもおかしくありませんが、一発勝負のRTAイベントであることを念頭にしっかりとリスク対策を講じた戦略を選択していたように感じました。
チャート作成がRTAの質を高める
RTAには2つのフェーズがあります。1つ目はRTAチャートを構築するフェーズ、2つ目は構築されたRTAチャートに沿って実際のプレイを行うフェーズです。このうち、RTA in Japanのような配信イベントで視聴者に提示されるのは常に後者であり、視聴者からの賞賛を集める対象となるのはそこで実際に行われたプレイングです。そのため、RTAプレイヤーの多くがプレイングの質を高めることに注力しがちなのはある意味で当然ではあります。しかし、RTAはそれだけで完成するものではなく、地道な調査を通じてRTAチャートとしての質を高めていく工程も同じくらい重要です。
その点、今回のポケモン赤緑RTAを披露したずのう氏は2つのフェーズを反復的に実践することで、プレイングの質のみならずRTAチャートの質を高いレベルで完成させていると感じました。150匹のポケモンを集める自由度の高さと、通信交換時に同期を取らなければならない制約の厳しさという2つの特性を持つレギュレーションの中で、洗練されたRTAチャートを構築することは容易ではなかったはずです。ご本人がプレイ中に語っていた通り、長年のチャレンジの中で少しずつ改善を積み重ねていった結果なのでしょう。RTA in Japanで披露された見事な攻略は、その裏に膨大な試行錯誤があったであろうことを十分に想像させるものでした。そうした試行錯誤を経て、RTAチャートの1つ1つの行動の意味を完全に自分のものにしていたからこそ、ちょっとしたミスや不運があっても柔軟にリカバリーすることができ、ひいては両手同時プレイという異次元のプレイスタイルが可能になったのだと思います。
RTAチャートの洗練度とプレイングの精度、そして異次元のプレイスタイル。これらが三位一体となって完成されたRTAだったと感じました。
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