先日まで開催されていたRTA in Japan summer 2022においてトリを務めたDQ3RTAを視聴しました。
DQ3と言えばまさにRTAのルーツとなった作品です。ゲーム内時間を競うタイムアタックのほうがメジャーだった2000年頃に初めて実時間を競うリアルタイムアタックという概念が誕生した当初から、盛んにプレイされてきたのがDQ3RTA。2001年には世界初のRTA大会となるDQ3RTA大会が東京大学五月祭で開催されました。RTAの題材としての戦略性・競技性が最高峰のゲームのひとつであり、まさに原点にして頂点、そんな作品を今大会のトリに配置したRTA in Japan運営の方々にも敬意を表したいです。
走者のMaru氏、けった氏、実況のもりぞー氏はいずれもDQ3RTAで全国トップクラスのプレイヤーで、洗練されたプレイングとハイレベルな競争が見られるとの期待から大いに注目していたイベントでした。
古参のいちRTAプレイヤーとして、今回のDQ3RTAを視聴した感想を書いていきたいと思います。
目次
プレイ内容について
非常に精度の高いプレイング
両プレイヤーともコマンド入力の速さが圧倒的でした。そして正確。特に圧巻なのは雑魚敵の対処でしょう。DQ3では逃げるの成功率が低めで、漫然と逃げるを選択すると被害の期待値が大きいため、敵パーティの構成に応じて適切に対処することが求められます。終盤になると取り得る行動の選択肢が増えて判断に迷いやすいところですが、澱みないコマンド捌きは流石でした。
他にも、ボス戦前の道具の受け渡しコマンドの速さも見事でした。誰に何を持たせるかという戦術面の知識のみならず、そのときの道具欄の配置を記憶した上で操作しないといけないので、見た目は地味ながら最速入力するのは難しいところです。アクションゲームのRTAにおける1F技のような派手さはありませんが、こういった細かいプレイングを3時間も続けるのは大変なのです。
危機管理能力の高さ
一発勝負のRTAは最速タイム狙いのRTAとは全く異なります。その最大の要因は、ミスやイレギュラー事象の発生時にリカバリーしなければならないこと。特にこのような大会では時間枠が決まっているので、あらゆる事態を想定してリカバリーの準備をしておく必要があります。時間は待ってくれません。
ピラミッドでの全滅、バイキルト習得失敗、バラモス戦の全滅、祈りの指輪の破損…などなどDQ3RTAには様々なリスク事象がありますが、両プレイヤーは一発勝負形式のRTAでも十分な経験を積んでいることもあり、何が起きても落ち着いて対応していました。結果的に、ゾーマ戦の2度の全滅で制限時間オーバーしましたが、リカバリーとしては最善の対応ができていたのではないかと思います。
また、逆に想定外の幸運を活かすことも一種の危機管理だと言えます。今大会では、けった氏にハンターフライがみかわしの服をドロップする幸運(確率1/128)がありましたが、その売却益であらかじめ毒蛾の粉を多めに購入することで、後々の補充を省略していました。幸運をタイム短縮に結び付けるという対応力の高さが見られました。
レース形式の醍醐味
全編を通じて僅差を争うレースとなり、わずかなプレイの差で順位が逆転するようなシーソーゲーム的展開になったのは見ていて面白かったです。メタル狩り運のようなわかりやすい差だけでなく、エンカウントした敵の差でタイム差が広がったり縮んだりするのがレース形式ならではの醍醐味。もちろん、実力が拮抗したプレイヤー同士だからこそ生まれた展開であるのは言うまでもありません。また、実況のもりぞー氏が細かく両プレイヤーのタイム差を把握しており、具体的な数字を織り交ぜながら状況説明をしていたことが演出の上でも効果的でした。
プレイ内容以外について
寄付額投票
今回のRTA in Japanで新たに導入された仕組みで、寄付額投票というものがありました。DQ3RTAでは、まことの名と商人の名前について、寄付額が最も多かった名称を採用するという施策となっていました。
これは、RTAイベントの新たなマネタイズ手法になる可能性があると思いました。今回は寄付という形式でしたが、例えばスポンサー契約をした企業の名称をゲームの主人公の名前にする、みたいなことも考えられそうです。
RPGのRTAの見せ方
最近、「映画を早送りで観る人たち」(稲田豊史/著)という本を読みました。その中で、映像作品の供給過多によって映画やドラマが鑑賞するものから消化するものに変化しつつあり、結果としてZ世代を中心に映画やドラマを早送りで視聴する人が増えているという趣旨の記述がありました。彼らはコスパ至上主義的であり、長時間を投資して視聴した映画がつまらなくて時間を無駄にするというリスクを回避したいのだ、とのこと。
今回のDQ3RTAは3時間30分程度の企画であり、RPGのRTAとしては決して長いものではありませんが、それでも他のジャンルのゲームに比べると長時間であるのは間違いありません。”映画を早送りで観る人たち”からすれば、これをライブで視聴するのは到底耐えられない苦行なのかもしれません。
実際、RPGのRTAでは、主要ボスとの戦闘シーンのようなわかりやすい見どころ以外では退屈なシーンが続くことも少なくありません。雑魚敵との戦闘、アイテム回収、ダンジョンの踏破ルートなどの何気ないプレイひとつにも理由があり、プレイヤーの深い考察が隠れているものですが、よほどそのゲームに詳しい視聴者でなければ退屈なものに感じられてしまいます。
そもそもRTAというのはわかる人にだけわかってもらえればよいのだ、という考え方もあるでしょうが、一方でアクションゲームのRTAでは見た目にも鮮やかなテクニックで多くの観衆を魅了しているのも事実です。そういった光景を横目に見て、RPGのRTAプレイヤーとしては忸怩たる思いです。
観客をいかに退屈させず、離脱させずに最後まで視聴させるか。
そのひとつの解決策が実況・解説なのでしょう。今回のDQ3RTAでは、実況のもりぞー氏の軽妙なトークに加え、両プレイヤーによる対戦相手への挑発の応酬などが見られ、やや中だるみしがちな場面でも視聴者を楽しませることに成功していたように思います。その意味では答えを提示してくれたと言えるのですが、個人の力量に依存しすぎているのも事実。仕組みとして何か新しい見せ方を取り入れる必要があるのかもしれません。
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